2023年03月19日
アクティブバイスタンダーとは?
アクティブバイスタンダーという言葉をご存知ですか?
アクティブは行動する、バイスタンダーは傍観者・第三者(その場に居合わせた人)ですので、直訳すると「行動する傍観者」となります。誰かが危険な状況や差別的な言動にさらされている場に第三者として居合わせた時に、被害者や加害者に対して積極的に行動を起こす人をアクティブバイスタンダーと言います。
アクティブバイスタンダーを広めるため、国連が作成した動画を紹介します。
セクハラ研修は逆効果?
私がアクティブバイスタンダーという言葉を知ったきっかけは「職場のセクハラ対策はなぜ裏目に出るのか」(ダイアモンド社) という書籍です。これはアメリカで行われたセクハラに関する研究結果をまとめた論文です。
アメリカでは、1990年代には多くの企業がセクハラの研修やセクハラ被害の苦情処理制度を設け、20~30年取り組みを続けていますが、最近の調査でも、セクハラを受けたことがあるという女性が約40%、男性では16%いるとのことです。これだけ研修や苦情処理制度が広く浸透しているのに、なぜセクハラが減らないのか、という疑問が研究の出発点になっています。
研究の結果、わかったことは禁止行為にフォーカスする研修は逆効果だということです。重要な部分ですので、引用します。
「ある集団に対して『あなたたちが悪いのだ』と責めるような研修を始めたら、それがどんな研修であっても、その集団の人たちは防御的になる。そうなると、その人たちが解決に向けて協力する可能性は低くなり、逆に抵抗しようとする。(省略)。研究によると、セクハラ研修を実施すると、男性は被害者をより責めるようになり『セクハラを訴える女性は話をでっち上げているか、過剰反応を示している』と考える傾向も強まる。(省略)。例えば、防御的になった男性が、研修で示される事例やセクハラそのものをジョークにする、といったことが起こる。」
最後の例は、私も研修後、しばしば目撃しています。
それでは、どのような研修なら効果があるのでしょうか。筆者らは最も有望な研修として「第三者介入」(バイスタンダー・インターベンション)を挙げています。このプログラムは次の前提で始まります。
「研修を受ける人は、セクハラや性的暴行の問題をともに解決する仲間であって、潜在的加害者ではない。」
参加者は、セクハラの初期のサインをどうやって見つけるか、どのように迅速に介入し、問題がエスカレートするのを防ぐかを学びます。この研修であれば、自分たちが悪役ではなくヒーローになれると感じ、参加者は集中して取り組むことがわかったそうです。
ハラスメント発生と職場環境の関係
もう一つ、第三者の存在が重要だと考えるようになったきっかけは、2022年1月にNHKで放送された逆転人生「日本初のセクハラ裁判が教えてくれる15のこと」という番組です。
番組の内容自体も非常に興味深かったのですが、もう一つ印象に残ったのが、番組内でジャーナリストの白川桃子さんが仰っていた「セクハラをする人はどこでもセクハラをするわけではない。周囲がセクハラを許すからセクハラをする。逆に周りが許さなければ、その人はセクハラをしない。」という言葉です。
それを受けて、タレントのSHELLYさんが「笑わないことも大事。飲み会で上司が『お前、胸でかいな』みたいな発言をしても、周囲が真顔で『ん?』みたいな反応をすれば、その上司にも『今はこういう発言はダメなのか』と伝わるのでは?」という話をされ、「あなたのリアクションで職場環境は変えられる」と結ばれていました。
行為者に直接「No!」と言わなくても、間接的にハラスメントをなくす方法があるというのは、私にとって大きな気づきでした。
アクティブバイスタンダーが出来る5つの介入方法
ここまで、セクハラの例で話をしてきましたが、パワハラ等、他のハラスメントも同様に、アクティブバイスタンダーの存在が重要だと考えます。
では、アクティブバイスタンダーとして実際にどのような行動がとれるのでしょうか。具体的な介入方法として5Dと呼ばれる方法があるので紹介します。
アクティブバイスタンダーが出来る5D
Distract:注意をそらす
関係のない話をしたり、加害者の注意をそらすことによって被害を防ぐ⽅法
<例>
飲み会の場でセクハラ場面を目撃した時に、意図的に飲み物をこぼしたり、「何か注文する?」と言って間に入る。
Delegate:第三者に助けを求める
自分で率先して行動を起こすことが難しいとき、自分以外の第三者に助けや周囲に協力を求める方法。
<例>
加害者の上長や人事担当者等に連絡する。
Document:証拠を残す
状況や、⽇時、場所が特定できるよう証拠を残す方法。
<例>
その場を撮影・録音する、メモを書くなど
Delay:後からの対応
後から対応するという⽅法。
<例>
・被害者に『大丈夫ですか』『何かできることはありますか』と声をかける
・相談窓口に相談することを促す/⼀緒に付き添うなど
Direct:直接介入する
直接介⼊をして加害者に注意をするという⽅法。
<例>
「職場でそういう発言は控えていただきたいです」「ハラスメントだと思います」と伝える。
※加害者の敵意がこちら側に向いてしまう可能性があるので、被害者と介⼊するバイスタンダーの安全が確保されていることが⼤切です。エスカレートすることを防ぐために加害者との議論は避け、短く端的に実施し、被害者の必要なサポートに目を向けましょう。
特に最後の「直接介入する」は、部下から上司には言いにくいなど、職場では難しい面もあると思います。だからこそ、研修の場が重要だと考えています。
ハラスメント対策の主役は第三者
直接、本人に向かって「あなたのやっていることはハラスメントです」というのは、とてもハードルが高いと思います。
しかし、ケーススタディで、本人ではなくケースの中の加害者について
「こんな発言は相手の人格を否定していると感じる」
「私はハラスメントだと思う」
という意見を出してもらうことによって、そのような言動に心当たりがある人も、今の時代の「平均的な労働者の感じ方」(注:パワハラやセクハラの判断要素の一つ)がわかり、アップデートにつながるのではないでしょうか。
また、意見を出した人は間接的にアクティブバイスタンダーの役割を果たしたことになり、ハラスメントに対する意識をより高めていただくことが出来ると思います。
これまでの研修は、加害者あるは被害者に直接呼びかける内容がメインのものが多かったと思いますが、ハラスメント対策のカギを握るのは実はそういった当事者ではなく、第三者だと思います。私自身、いかに職場にアクティブバイスタンダーを増やしていくかということを念頭に、これからも取り組んでいきたいと考えています。