どんな言動がパワハラになるの?具体的な事例をご紹介

2021年03月03日(水)2:30 PM

パワハラでわかりにくいのはどこまでが指導でどこからがパワハラなのかだと思います。そのため、事例で教えてほしいという声もよくお聞きします。そこで今回はパワハラの事例をご紹介します。 また、人事担当者様向けに、研修で事例を扱う際のメリット・デメリット、取り扱いのポイントもご紹介します。

 

パワーハラスメントの代表的な⾔動の類型(6つの類型)

 

該当すると考えられる例・該当しないと考えられる例

ご存知の方も多いと思いますが、パワハラには6つの類型と呼ばれる代表的な言動の類型があります。それぞれの類型ごとに「該当すると考えられる例」、「該当しないと考えられる例」が厚生労働省の指針で示されているので見てみましょう。

代表的な言動の類型 該当すると考えられる例 該当しないと考えられる例
(1)身体的な攻撃
(暴行、傷害)
①殴打、足蹴りを行うこと。
②相手に物を投げつけること。
①誤ってぶつかること。
(2)精神的な攻撃
(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
①人格を否定するような言動を行うこと。相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含む。
②業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと。
③他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと。
④相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の労働者宛てに送信すること。
①遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意をすること。
②その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意をすること。
(3)人間関係からの切り離し
(隔離・仲間外し・無視)
①自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりすること。
②一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させること。
①新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に別室で研修等の教育を実施すること。
②懲戒規定に基づき処分を受けた労働者に対し、通常の業務に復帰させるために、その前に、一時的に別室で必要な研修を受けさせること。
(4)過大な要求
(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
①長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずること。
②新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること。
③労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせること。
①労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せること。
②業務の繁忙期に、業務上の必要性から、当該業務の担当者に通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せること。
(5)過小な要求
(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
①管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせること。
②気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないこと。
①労働者の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減すること。
(6)個の侵害
(私的なことに過度に立ち入ること)
①労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりすること。
②労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること。
①労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況等についてヒアリングを行うこと。
②労働者の了解を得て、当該労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促すこと。

参照元:「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」(厚生労働省)
ハラスメントパンフ.indd (mhlw.go.jp)

 

裁判例

もう少し具体的な出来事でイメージしたい方のために、類型毎の裁判例をご紹介します。

 

身体的な攻撃 衣料品販売事件(控訴審)(名古屋高判 平成20年1月29日)

店長が、従業員間の連絡に使う店舗運営日誌に店長の業務上の不備を記載したり、店長に対して生意気な態度をとったりする部下(店長代行)に対して、胸倉をつかみ、背部を板壁に3回ほど打ちつけた上、側にあったロッカーに頭部や背部を3回ほど打ち付け、顔面に1回頭突き、首のあたりを両手でつかみ、板壁に頭部、背部等を1回打ち付けた行為につき、違法性は明らかであるとした。(賠償金額約205万円及び弁護士費用)

 

精神的な攻撃 N化学事件(東京地判 平成19年10月15日)

係長の部下に対する発言(「存在が目障りだ、いるだけでみんなが迷惑している。お前のカミさんも気がしれん。お願いだから消えてくれ。」、「車のガソリン代がもったいない。」、「何処へ飛ばされようと俺はX(当該部下)は仕事をしないやつだと言い触らしたる。」、「お前は会社を食い物にしている、給料泥棒。」、「肩にフケがベターとついている。お前病気と違うか。」等)は一般人を基準として、社会通念上、客観的にみると、部下に精神障害を発症させる程度に過剰な心理的負荷を与えていたとして、部下の精神障害発症及び自殺につき、業務起因性を認めた。(遺族補償給付の支払いの認容)

 

人間関係からの切り離し N配転拒否事件(神戸地判 平成6年11月4日)

配転命令を拒否した従業員に対して、仕事を取り上げ、電話の受話器を取りにくくするため、わざわざ机の位置を受話器の置かれている場所から遠ざけるようなことをしたり、他の社員から隔離するために管理職の目の前に席を移動して監視するなどの行為を1年近く続けたことは、説得の域を逸脱し、合理的な裁量の範囲を逸脱していることは明らかである、として違法性を認めた。(慰謝料60万円)

 

過大な要求 Y土建事件(津地判 平成21年2月19日 )

Zは指導に当たっていたCから、今日中に仕事を片付けておけと命じられて、1人遅くまで残業せざるをえない状況になったり、他の作業員らの終わっていない仕事を押しつけられて、仕事のやり方がわからないまま、ひとり深夜遅くまで残業したり、徹夜で仕事をしたりしていたことに対して、違法な時間外労働及び上司によるパワーハラスメントを放置したものとして、Y社の債務不履行責任及び不法行為責任を認めた。(両親に対し慰謝料150万円)

 

過小な要求 BA事件(東京地判 平成7年12月4日)

管理職(課長)が会社の新経営方針の推進に積極的に協力しなかったために、降格および総務課(受付)への配転をした会社の行為が不法行為にあたるかどうかが争われた。総務課の受付は、それまで20代前半の女性契約社員が担当していた業務であり、勤続33年に及び、課長まで経験した者にふさわしい職務であるとは到底いえず、人格権(名誉)を侵害し、会社に許された裁量権の範囲を逸脱した違法なものであって不法行為を構成すると判断された。(慰謝料100万円)

 

個の侵害 K電力事件(最三小判 平成7年9月5日)

Yの従業員であったXらが共産党員又はその同調者であることのみを理由とし、Yがその職制等を通じて、職場の内外でXらを継続的に監視したり、Xらと接触等しないよう他の従業員に働きかけたり、種々の方法を用いてXらを職場で孤立させるなどし、更にXらを尾行したり、ロッカーを無断であけて私物である「民青手帳」の写真撮影をした行為は、不法行為にあたるとして、損害賠償が認められた。(一審判決:慰謝料80万円、弁護士費用10万円)

その他の裁判例については、こちらを参考にしてください。

裁判例を見てみよう|あかるい職場応援団 -職場のハラスメント(パワハラ、セクハラ、マタハラ)の予防・解決に向けたポータルサイト- (mhlw.go.jp)

 

研修で事例を紹介するメリット・デメリット

パワハラ研修講師のお話をいただく際に、上記のような事例をたくさん紹介してほしいというご要望もよくいただきます。ただ、研修で事例を紹介するのは、メリット・デメリットの両面があると感じています。

 

メリット

まずは、やはりイメージがしやすいので、わかりやすいという点が挙げられます。また、定義のような抽象的な話よりも興味を持っていただけるようです。

 

デメリット

パワハラには様々なパターンがありますので、ご紹介した事例がその会社ではあまり起こらないケースだった場合は、時間の無駄遣いになってしまいます。また、本来パワハラになるかどうかは、その言動を行った目的や、そこに至る経緯、発した言葉、伝えた時の態度、頻度、期間、被害者の属性等、様々な背景を含めて判断をしますが、事例で伝えた時に、背景の部分を切り捨てて表面的な言動だけを覚えてしまう(例:バカヤローと言ったらパワハラ等)こともありがちです。
その結果、「○○(例:「バカヤロー」)さえ言わなければOK」と誤解されてしまうこともあります。 これに似た話が新型コロナウイルスの対策でも起こっているということで、興味深い記事を見かけました。

外の酒盛り、ランチならOK? 誤解されるメッセージ(1/2ページ) – 産経ニュース (sankei.com)

この記事の中では、午後8時以降の不要不急の外出自粛要請に対し、「昼ならば問題ない」という誤解が広まった原因として、「会食や外出は、誰もが本当は自粛したくない。だからこそ揚げ足を取るような解釈や、隙間を縫うような行動が起きる」と指摘されています。その対策として「とってほしい行動を、具体的に伝える方が効果的だ」とし、「避けることや控えることを示すと、どうしても抜け道ができてしまう。黙って食事をする、テレワークをするなど、とるべき行動を具体的に示す方が伝わりやすい」と述べています。
同じように、パワハラ加害者予備軍の人ほど、今の自分の言動を変えたくないという思いを持っていて、事例を紹介しても「事例のケースと、自分がやっていることは全く同じではないから、自分のやっていることはパワハラではない」と捉えたがり、自覚につながらないケースが多いように思います。

 

事例紹介のポイント

研修で事例を伝えない方がいいという訳ではありませんが、上記のようなデメリットを意識した上で、効果的な伝え方を検討する必要があると思っています。そのポイントをお伝えします。

 

自社に合った事例を使う

まずは、自社でどのようなパワハラが起きているかを把握し、多く発生しているケースを事例として紹介します。もちろん、そのまま紹介すると、誰の言動かがわかってしまい公開処刑になってしまうリスクがありますので、本質を残したままアレンジをする必要あります。それでも、上記のように「ちょっと違うから、自分には当てはまらない」と捉えられる可能性があることは、押さえておく必要があるでしょう。

 

ハラスメントと判断された理由を考えてもらう

事例を講師が一方的に紹介すると、デメリットで説明したように表面的な言動だけが記憶に残ってしまいがちです。そこで、事例をワークにして、「これは指導でしょうか?パワハラでしょうか?そのように判断した理由は何ですか?」と自分たちで考えてもらうようにすると、より深い理解につながります。

 

NG言動の紹介だけで終わらせない

ここまでご説明をしたように、事例を紹介し「このような言動はNGです」と伝えるだけでは行動変容は起こりにくいと思います。それどころか、「注意をしてパワハラだと思われたら嫌だから出来るだけ注意をするのはやめておこう」といった委縮につながったり、ハラスメントの取り組み自体に抵抗感を持ったりすることにつながりかねません。 上記記事にも「とってほしい行動を、具体的に伝える方が効果的だ」とありますが、 「あれをやってはダメ」、「これをやってもダメ」と伝えるだけではなく、どのように指導をしたらよいのか、コミュニケーションをとったらよいのか、という点まで丁寧に伝えることが大切だと思います。 その為にも、パワハラ研修ではある程度の時間を確保し、皆さんに考えてもらう参加型で行うことをお勧めします。


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